2013-01-01から1年間の記事一覧

川口葉子『東京カフェ散歩』、別冊宝島『写真と地図でよくわかる 太平洋戦争はこうして始まりこうして終わった』

東京カフェ散歩 観光と日常 (祥伝社黄金文庫)作者: 川口葉子出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2012/12/12メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (2件) を見る 東京をひとつのフィールドと考えた時、カフェなどの飲食店は休息の場所、そこに行けば…

応地利明『絵地図の世界像』、ミロラド・パヴィチ『ハザール事典―夢の狩人たちの物語』

絵地図の世界像 (岩波新書)作者: 応地利明出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1996/12/20メディア: 新書 クリック: 2回この商品を含むブログ (2件) を見る 地図にはそれを用いた人々の世界観が刻印されており、各時代の地図を読み解くことは、人々の心性の変…

『ヘリック詩鈔』、『和泉式部日記』

ヘリック詩鈔 (1982年)作者: 森亮出版社/メーカー: 槐書房発売日: 1982/08メディア: ?この商品を含むブログを見る ロバート・ヘリックは17世紀王党派の詩人・聖職者。寡聞にして知らなかったが重要な詩人とのことで、読んでみたらこれが案外良い。田舎の知識…

かぶと虫になる

かぶと虫になったわたしが 瓷に頭をつっこんで蜜を吸っている 西日も射さない土間の隅で 瓷の縁に手をついて蜜を吸っている 本当はこんなこと許されていなくて 惨めでたまらないのだけど もうかぶと虫になってしまったのだから ほかに手立てはないのだ 誰か…

暗峠

奥は暗くておそろしければ… 和泉式部 ふいに戸を閉められて 暗い場所に置き去りにされてみれば 息をするのもままならぬほどで 手探りで進む手に 布がひらひらとまといつく 天井に着物でも吊るされているのか 探っても探っても壁はなく 道行きの果ては底知れ…

東京駅

8月-9月

人形劇

空の彼方に 雲がすばやく流れている時は 家のほうが動いているような気がする そう考えると足元がぐらついて ああでもないこうでもないと 心臓に暗い汁が溜まってきて 余計なことを考えないように 細い道の先だけ見ていればいいのに 水際に打ち捨てられた軽…

錯視

晩遅く帰った宅の 戸をからからと引いて 玄関先に靴が揃えられている その脇をすっと通る 長い廊下にはぼんやりと俯き加減の 男や女が行き交っていて もうさすがに惑わされることはないが とうに慣れた今でも なんとはなしに気にかかる あるいは 些細なこと…

『ビジュアル図解 連合艦隊全作戦記録』、『北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション』

ビジュアル図解 連合艦隊全作戦記録 (別冊宝島 2042)出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2013/07/16メディア: 大型本この商品を含むブログを見る ブラウザゲーム「艦これ」をきっかけに本書を手に取った。連合艦隊の誕生から大戦への歩み、真珠湾奇襲から大和沈…

夜中の生き物

ひじきを煮付けていて 鍋の中はまっくらやみの夜 手を差し入れればぐいとつかむものがあり イヤダイヤダと言っているうちに 連れて行かれた海の底で おまえはうみうしになる 立派なうみうしになれてよかったと 家族は喜んでいるけれど わたしはごまかされな…

盆踊り

原っぱに出かけよう そこには盆の間にだけ 夏の組合の人たちが見え隠れし 錆びついた刃物や 色とりどりの皿を持ち寄って 陽気な盆踊りを踊っている 陽気な音楽に誘われて 物を知らない子供が迷い込み 消えてしまうなんてこともあるけれど そんなことは別にい…

洪水の夜

まだ夕方だというのに眠くて すこし横になっておこうかと考えているうちに いつのまにか眠りがやってくる 目を覚ますととうに外は暗い 諦めてこのまま寝直してしまおう と、その前に水を一口 手を伸ばした枕元の感触がおかしくて 月明かりを頼りに見てみれば…

『幻想と怪奇 2』、『宮沢賢治全集〈2〉』

幻想と怪奇 2 (ハヤカワ文庫 NV 119)作者: ロバート・ブロック,仁賀克雄出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1976/06メディア: 文庫この商品を含むブログを見る ブラッドベリ「トランク詰めの女」が叙情的で良いが、しかし本書ではハイスミスの有名作品「かた…

別府湾

小学校の桜にいつか辿り着く 吉田右門 学校前の坂を上っていくと コンクリートで固められた左手の斜面に ぴたりとはめ込まれた形の地蔵がいて 土の猛威を抑えているのか 背中を見送られる心持ちで ずいぶんとほっとした 昼の空は硬質の雲を隠し持ち いつでも…

夏の空

居眠り

棚の上には 黒いローマの熊が立ち上がる 人形の髪は長く伸びる わたしは眠いのを我慢して こっくりと頭を傾ける度に その度に舌を噛み切ってしまわないか 冷静に算段する

宮沢賢治

近代文学館〈〔91〕〉注文の多い料理店―名著複刻全集 (1969年)作者: 宮沢賢治出版社/メーカー: 日本近代文学館 図書月販発売日: 1969メディア: ? クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る 誤植までそのままの復刻版で素晴らしい。雰囲気たっぷりの装…

命日

枕が熱くて眠れない という風に文字が頭に入らなくて 本をあれこれとっかえひっかえしている 花瓶に挿しっぱなしの花は枯れ 早く替えないといけないなと思う 窓の外は静かな真夏日 届くはずの郵便は届かず 池の鯉は泳ぎ疲れて わたしも眠りの中に入っていき…

なまこ料理

どこまで行っても焼けた道が続くものだから どうにもやりきれなくなって 木陰で休んでいる行商に暑いですね 魚ですか? と聞いてみる おばあちゃんはにこにこして なまこを売りよんよ、と氷を敷き詰めたリヤカーから 新聞紙にくるんだそれを取り出してくれる…

オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』、『八木重吉全詩集〈1〉』

天体による永遠 (岩波文庫)作者: オーギュスト・ブランキ,浜本正文出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2012/10/17メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (7件) を見る ベンヤミンからの流れで読んだ。一九世紀、その生涯の大半を牢獄に過ごした革…

水槽

叔父が川で釣ってきた魚を 金魚の水槽に入れておいたら 次の日には金魚が一匹いなくなっていた その次の日にはもう一匹 さらに次の日にはもう一匹 しまいには金魚はすべて消えてしまって うす黒い鱗をぎらぎらさせた 種類のよくわからない魚が 悠々と尾をひ…

ハンス・ヘニー・ヤーン『十三の無気味な物語』、高橋洋一『ジャン・コクトー―幻視芸術の魔術師』

十三の無気味な物語 (白水Uブックス (52))作者: ハンス・ヘニー・ヤーン,種村季弘出版社/メーカー: 白水社発売日: 1984/05メディア: 新書購入: 3人 クリック: 11回この商品を含むブログ (5件) を見る 全篇に重苦しく幻想的な雰囲気がまとわりつく。土俗的で…

『自選 谷川俊太郎詩集』、『李賀詩選』

自選 谷川俊太郎詩集 (岩波文庫)作者: 谷川俊太郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/01/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (10件) を見る 折あるごとに読んでいたがこうしてまとめて読むのは初めてだったりする。谷川俊太郎…

ルネ・デヴナン『伝説の国』、山口昌男『祝祭都市―象徴人類学的アプローチ』

伝説の国 (1974年) (文庫クセジュ)作者: ルネ・デヴナン,笹本孝出版社/メーカー: 白水社発売日: 1974メディア: 文庫この商品を含むブログを見る アトランティスを嚆矢に史上様々に幻想されてきた伝説の国について、主にヨーロッパの視点で紹介する。神話に見…

小田久郎『戦後詩壇私史』、プルタルコス『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』

戦後詩壇私史作者: 小田久郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1995/02メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る 思潮社を創業した小田久郎による戦後20年に渡る回想記。戦後詩壇の消長、詩人や雑誌の思い出が、時代を歩んだ当事者の…

夕立

不穏な色をした空に 待ち焦がれていた雷が鳴ると 大急ぎで台所に立って ちぎったレタスにごま油と 塩を振ったものを用意する サラダボウルを抱え 窓の前に陣取り ぽつぽつと落ちてきた雨に もっと土砂降りになれ 空が割れるほどの大雨になれ などとうきうき…

トロイメライ

雨戸を閉めきった家が並ぶ かんかん照りの通りを行く 夏の盛りの昼日中 打ち水のあとも乾き果てた道には 人も車も、猫の一匹もいない 影ですら焼きつくよう こんな時にどこからか トロイメライなんて流れてきたら 少しはいい気分になるかもしれない 雨戸の向…

巴旦杏

女の子が一人で 木陰に立っていて それが朝からずっといるし ここらへんでは見ない子だから なんだか不思議だなあと思う 誰かを待っているのかな それともかくれんぼをしているうちに 家に帰れなくなった子が 生きることも死ぬこともできず 途方に暮れている…