ハンス・ヘニー・ヤーン『十三の無気味な物語』、高橋洋一『ジャン・コクトー―幻視芸術の魔術師』

十三の無気味な物語 (白水Uブックス (52))

十三の無気味な物語 (白水Uブックス (52))

全篇に重苦しく幻想的な雰囲気がまとわりつく。土俗的であったり不条理であったりする中に様々に血なまぐさいものが見え隠れするのだが、それは常識から外れたもの、禁忌として普通は締め出されているものである。粘りつくような文体には難儀するものの、読み終えた今となっては嫌悪と愛着の両方を誘う。きっとまた吐き気をこらえながら読むのだろうと思う。

自分にとってコクトーは避けていた人物の一人。だってなんか気取ってるし近寄りがたい。と思いつつ読んだら、これが大層面白かった。詩、舞踊、音楽、演劇、映画と、既成の芸術を超えた領域横断的な場所で、ある種のプロデューサーの立場から詩の世界を切り開いた人物だったらしい。後世の総合芸術の礎を築いた部分でも重要だし、なにより活動の全体から読み取れる芸術への愛には心を打たれる。この人をもっと知りたいと率直に感じさせてくれた。