2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

赤飯三題

むかし 納屋の整理をした折 古箪笥の引き出しを開けると 中が炊きたての赤飯でいっぱいだったことがある 春の川でとれた蟹の甲羅を剥ぐと どの蟹にも赤飯がぎっしり詰まっていたこともある それからこういう話もある 美人で知られたおんなが病気で死んで 湯…

曇り空から縄が垂れている どこに続いているのか先は見えない 午後になると近所のものが集まってきて 突如現れたこの縄について協議しはじめた 一人がおれが片付けてやると言って前に出る 触らないほうがいいと皆は止めたが こういったあやかしには毅然と立…

むじな

それについては因縁がある なにせ前世の仇だから うららかな冬の日 わたしはそいつを探して山にきた 皮をなめして枕にしてやろうと思ったのだ 鉄砲をかかえ 神社の脇を通った時 昼寝しているそいつを見つけた こんなに簡単にいくものなのかと うまうまと鉄砲…

起こして

寝ているうちに夕方になった 夜になる前に起きなければならない けれどどうしても布団から出られなくて カーテンの陰にいる母に 起こして と言ってみる 母は不思議そうな顔をしている 見ているだけなら早く成仏すればいいのにと思う 起き上がる気力がなくな…

自作評

短歌「ぺちゃんこ猫」 ユーモアのセンスがないねあなたには ぺちゃんこ猫に怒られる朝 猫の轢死体を「ぺちゃんこ猫」と言い換えて、それが自身の死をユーモアとして笑い飛ばす趣向。特にどうということはないが日常的な悲惨を笑う道化的な振る舞いは重要。 …

もやしヶ原

眠りが足りなければ不思議なことが起きる その言葉を証明するかのように 何日も眠れずに机に向かっていると 足裏の感触がどことなくおかしい じゅうたんのあちこちからもやしが発芽して 生えに生えてとどまることを知らず いちめんにふよふよと風に吹かれて…

葬式

母が買い物から帰ってくる わたしは床で死んでいる そんなところで死んだらだめと母が言う なんだか気恥ずかしくなって起き上がり 葬式はいつになるの などと話している そうこうしているうちに親戚が集まってきて どこで都合したのか祭壇が組み上がる 豪勢…

うで

米びつから米をすくいあげていて 底になにか引っかかるものがあると思ったら しなびた腕がいっぽん 計量カップのふちに指を引っかけていた 取り出してごろりと畳に投げ出した それ 黒ずんだ腕はいつから米びつの中にあったのか わたしは知らないし家族も知ら…

おばけやしき

さっき来た人からおばけやしきの話を聞く 夜になるとあやしい光や音がよく目撃されるとのことで なかなか借り手がつかなかったのだが ある日 怪異は近所の子供の仕業だったと判明して ひとまずは一件落着したという もういいかげんに老朽化したその家は 一旦…

シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』、四方田犬彦『空想旅行の修辞学―『ガリヴァー旅行記』論』

丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1) 作者: シャーリイ・ジャクスン,渡辺庸子 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2008/09 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 3回 この商品を含むブログ (20件) を見る 成長物語というジャンルがある。ある人物がなんらかの…

赤信号

赤信号で立ち止まったとき うしろから歩いてきた人がすうっと追い越していって そのままむこうへ渡ってしまった その自然な様子に呆然とする 自分もその人と同じようにして渡ってしまいたいのに いつ猛スピードで車が突っこんでくるかと 決心がつかなくてえ…

お供え

夜中に窓枠がぴしりと鳴る 夢のなかから呼び戻されて 枕元をさぐった手に触れるものがあり それは感触で人の耳だとわかる よく見えないがそれはたしかに二切れの耳で ゴムのおもちゃのようにも思える あるいは狩ったねずみを主人に供えるようにして 猫がここ…

人さらい

鏡を覗くと知らない人が映っている 引きつった頬はまるで人さらいのようだ 人さらいの口から人さらいの牙がにゅうっと伸びてきて 葡萄の彫りのある鏡を突き破りそうになる あわてて毛布をかぶせて 奥の倉庫にしまっておくことにする 人さらいはこわい 人さら…

部品

部品がいっぽん足りなくなって このままじゃあ埒が明かないから 町まで買いに行かせてくださいと頼んだのに ひょいひょいとあばら骨を抜かれて 蛸みたいに伸びている

『澁澤龍彦訳 暗黒怪奇短篇集』、塚本邦雄『定家百首―良夜爛漫』

澁澤龍彦訳 暗黒怪奇短篇集 (河出文庫) 作者: 澁澤龍彦 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2013/08/06 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る いくつかは創元の『怪奇小説傑作集4 フランス編』で既読。このアンソロジーのメインといえば、…

フィオナ・マクラウド『ケルト民話集』、内田樹『映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想』

ケルト民話集 (1983年) (妖精文庫〈31〉) 作者: フィオナ・マクラウド,荒俣宏 出版社/メーカー: 月刊ペン社 発売日: 1983/02 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 悲哀の色濃さはケルトの運命観によるものか、と思ったが、神秘主義思想に関連したケル…

アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』、レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ『パリの夜―革命下の民衆』

2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫 SF 243) 作者: アーサー C.クラーク,伊藤典夫 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1977/05 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 1回 この商品を含むブログ (19件) を見る 地球とははるかに隔絶した宇宙空間に恐怖症的なめまい…

大泉黒石『黄夫人の手』、ヴォルフガング・シヴェルブシュ『闇をひらく光―19世紀における照明の歴史』

明けましておめでとうございます。今年は詩集を出します。 黄(ウォン)夫人の手 ---黒石怪奇物語集 (河出文庫) 作者: 大泉黒石 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2013/07/05 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 大正時代の作家・大泉黒…