2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

詩集『十夜録』刊行のお知らせ

4月1日に春日線香詩集『十夜録』(私家版)を刊行します。2002~2011年の間に書いた詩の中から20篇を選び、88ページの小詩集として一冊にまとめました。紙媒体では初めてとなる詩集です。レイアウトデザインや装丁、手作業による製本まで、ほぼすべての工程…

離れの母

離れの掘りごたつの中に母がいる 離れの掘りごたつの中にいる母は少女の姿で 絣の着物を着た古い時代の母である 古い時代の少女の姿の母は掘りごたつの中にいる 猫のように離れの掘りごたつの中にいる 少女の母は昔からいる猫のような 昔からいる母はわたし…

肉屋

かつて肉屋のおとこを愛していたことがあった 肉屋は肉屋だけあって包丁を使うのがとても上手で 朝から晩まで肉を切り続けているのだからそれは当然で 肉を包む新聞紙からじくじくと漏れている あたたかくも冷たくもない血が 生臭くも愛しい気分を起こさせた…

あしだか

あしだかというひょろ長いおんながうちにきて しばらくここに置いてくださいという これといってなにもお返しはできませんけれど お掃除くらいはさせていただきます そういって冷蔵庫の裏に陣取って かれこれ数ヶ月にもなる たまに姿を見かけるだけで邪魔に…

闇鍋

蟹が泳いでいた それを追ってわたしがきて 叔父がわたしを追いかけてきて 叔父を追いかけて姉もきていた だから家が火事になっても問題なかった みんなで食べた鍋は 罪の味がした

残されたもの

不発弾を掘り出したというので見にきたが 大きな穴が埋められもせず空いているだけだった 校庭には名残の雪が汚れた骨のようで からっ風が髪を乱して吹き去っていく 花壇にはパンジー どれも顔みたいに見える 池の鯉は氷の下で口をぱくぱくさせている 下校の…

『怪奇小説日和』、中井英夫『幻想博物館』

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<刑場通り>にて

刑場通りの夜は暗い かまどうまになったわたしたちは列をなし 水を求めてこの通りを進んでいった 途中 家々の窓はかたく閉ざされ 明かりもつけずにこちらを探る気配が窺える あの人たちも結局は同じ姿になるのだ わたしたちは互いに語る術を持たず ぽきぽき…

サトゥルヌス

庭から上がってきたのはサトゥルヌスである こんな雪の日に来るとは思っていなかったから ろくに用意もしておらず 急いで台所からあんぱんを出してくる あんぱんか という目で見られる 毛むくじゃらの手でためつすがめつしていたが それでも何もないよりまし…

自由

会合にも出た それから句会にも出た あとにはひと気のない座敷に一人きりで 茶を飲んで余韻を冷ましている 憂いはあらかた片付けてしまって 人に用立ててもらうものも特にない おもいきり火を使って料理するのもいいし かたつむりの中に塩を注いでやるのもい…

多木浩二『ヨーロッパ人の描いた世界』、廣野由美子『批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義』

ヨーロッパ人の描いた世界―コロンブスからクックまで 作者: 多木浩二 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1991/11/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 大航海時代の到来によって世界を拡充してきたヨーロッパの「知」は、その過程で多くのイメ…

遠くから冷たい風が吹いてきて ぺろりと剥げた顔が排水口に吸いこまれた あわてて手を突っこんでももう遅い その日から鏡もガラスもすっかり曇ってしまい 自分の顔というものがわからなくなった 写真を見返してもぼんやりとして 拭われたような暗闇が残され…