2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

居眠り

棚の上には 黒いローマの熊が立ち上がる 人形の髪は長く伸びる わたしは眠いのを我慢して こっくりと頭を傾ける度に その度に舌を噛み切ってしまわないか 冷静に算段する

宮沢賢治

近代文学館〈〔91〕〉注文の多い料理店―名著複刻全集 (1969年)作者: 宮沢賢治出版社/メーカー: 日本近代文学館 図書月販発売日: 1969メディア: ? クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る 誤植までそのままの復刻版で素晴らしい。雰囲気たっぷりの装…

命日

枕が熱くて眠れない という風に文字が頭に入らなくて 本をあれこれとっかえひっかえしている 花瓶に挿しっぱなしの花は枯れ 早く替えないといけないなと思う 窓の外は静かな真夏日 届くはずの郵便は届かず 池の鯉は泳ぎ疲れて わたしも眠りの中に入っていき…

なまこ料理

どこまで行っても焼けた道が続くものだから どうにもやりきれなくなって 木陰で休んでいる行商に暑いですね 魚ですか? と聞いてみる おばあちゃんはにこにこして なまこを売りよんよ、と氷を敷き詰めたリヤカーから 新聞紙にくるんだそれを取り出してくれる…

オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』、『八木重吉全詩集〈1〉』

天体による永遠 (岩波文庫)作者: オーギュスト・ブランキ,浜本正文出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2012/10/17メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (7件) を見る ベンヤミンからの流れで読んだ。一九世紀、その生涯の大半を牢獄に過ごした革…

水槽

叔父が川で釣ってきた魚を 金魚の水槽に入れておいたら 次の日には金魚が一匹いなくなっていた その次の日にはもう一匹 さらに次の日にはもう一匹 しまいには金魚はすべて消えてしまって うす黒い鱗をぎらぎらさせた 種類のよくわからない魚が 悠々と尾をひ…

ハンス・ヘニー・ヤーン『十三の無気味な物語』、高橋洋一『ジャン・コクトー―幻視芸術の魔術師』

十三の無気味な物語 (白水Uブックス (52))作者: ハンス・ヘニー・ヤーン,種村季弘出版社/メーカー: 白水社発売日: 1984/05メディア: 新書購入: 3人 クリック: 11回この商品を含むブログ (5件) を見る 全篇に重苦しく幻想的な雰囲気がまとわりつく。土俗的で…

『自選 谷川俊太郎詩集』、『李賀詩選』

自選 谷川俊太郎詩集 (岩波文庫)作者: 谷川俊太郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/01/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (10件) を見る 折あるごとに読んでいたがこうしてまとめて読むのは初めてだったりする。谷川俊太郎…

ルネ・デヴナン『伝説の国』、山口昌男『祝祭都市―象徴人類学的アプローチ』

伝説の国 (1974年) (文庫クセジュ)作者: ルネ・デヴナン,笹本孝出版社/メーカー: 白水社発売日: 1974メディア: 文庫この商品を含むブログを見る アトランティスを嚆矢に史上様々に幻想されてきた伝説の国について、主にヨーロッパの視点で紹介する。神話に見…

小田久郎『戦後詩壇私史』、プルタルコス『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』

戦後詩壇私史作者: 小田久郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1995/02メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る 思潮社を創業した小田久郎による戦後20年に渡る回想記。戦後詩壇の消長、詩人や雑誌の思い出が、時代を歩んだ当事者の…

夕立

不穏な色をした空に 待ち焦がれていた雷が鳴ると 大急ぎで台所に立って ちぎったレタスにごま油と 塩を振ったものを用意する サラダボウルを抱え 窓の前に陣取り ぽつぽつと落ちてきた雨に もっと土砂降りになれ 空が割れるほどの大雨になれ などとうきうき…

トロイメライ

雨戸を閉めきった家が並ぶ かんかん照りの通りを行く 夏の盛りの昼日中 打ち水のあとも乾き果てた道には 人も車も、猫の一匹もいない 影ですら焼きつくよう こんな時にどこからか トロイメライなんて流れてきたら 少しはいい気分になるかもしれない 雨戸の向…

巴旦杏

女の子が一人で 木陰に立っていて それが朝からずっといるし ここらへんでは見ない子だから なんだか不思議だなあと思う 誰かを待っているのかな それともかくれんぼをしているうちに 家に帰れなくなった子が 生きることも死ぬこともできず 途方に暮れている…

蟻地獄

あなたのおうちの ありじごくを見せてください お手間は取らせませんから 男はそう言って庭に回り しばらくあちらこちらと 何ほどか検討をつけていたが おもむろにしゃがみ込み ほうらこんなところにありますよ なんて嬉しげに言うものだから わたしはなんだ…

えのころ草

雨が降らないうちに えのころ草を採りにきた 町外れの原っぱには風が吹いて 水気を含む空気の中に 無数のえのころが揺れている どれも丸々と太った毛虫のようで 互いに体をこすりつけながら 刈り取られるのを今か今かと待っている 早速、籠から鎌を取り出し…

渋澤龍彦『城 夢想と現実のモニュメント』、飯沢耕太郎『写真美術館へようこそ』

城 夢想と現実のモニュメント―渋澤龍彦コレクション 河出文庫作者: 渋澤龍彦出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2001/10メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログを見る カステロフィリア(城砦愛好)を自認する氏による紀行エッセイ。信長の安…

お手玉

冬に放った雪玉は 楡の木立を弾んで通り 地蔵の額にこつんと当たる なにかと思った地蔵は手を上げ 叩いた手には血を吸った蚊 閉めきった襖は光を遮り 格子はいつもかくかくと白い 赤いお手玉ぽんと投げて 闇夜の空に吸い込まれていく わたしのお手玉 わたし…

ポエケット終了

昨日のポエケット、無事に終了しました。持参した詩集はすべて捌け、様々な方の作品を手にとることもできました。運営の方々、参加者の皆様に謹んでお礼申し上げます。『詩集 十夜録』製本版については鋭意進めていきますので、続報をのんびりとお待ち願いま…

春日線香詩集『十夜録』プレ版配布のお知らせ

7/7に開催される『第17回 TOKYO ポエケット IN 江戸博』に春日線香名義のコピー詩集を8部ほど持参します。ブース参加ではないのですが会場をふらついてるmisuiにコンタクトしていただければ無料で配布します。面識のあるなしに関わらずお渡ししますのでふる…

ねぎ坊主

百年の間には どれくらいの人が土に還ったのか と誰にともなく問うと 最近は火葬ばかりだから それほど多くはないんじゃないか とおまえが答える 縫い物の手を止めて振り向けば ねぎ坊主がぐらりぐらりと揺れていて まるで月が踊っているように思う

店番

夜のうちに降った雨は 屋根を洗い、軒を濡らして海へ抜けた わたしは誰もいない店で 時折、聞こえてくる犬の声を聞きながら 小僧のように座っている なにもすることがないとは お客が来ないとは 本当にかなしいものである 近所で祭りでもあれば 少しは店も繁…

吉村正和『フリーメイソン』、堀淳一『地図のワンダーランド』

フリーメイソン (講談社現代新書)作者: 吉村正和出版社/メーカー: 講談社発売日: 1989/01/17メディア: 新書購入: 3人 クリック: 63回この商品を含むブログ (25件) を見る いまいち実態の掴めないフリーメイソンについてよくまとまった好著。起源は諸説あるも…