2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

観葉植物

片隅で中国語が聞こえている それが意味するもの 空にかかる 「月は古い飴玉」 「海は流れ出た油」 それが町中に広がり夜になる それがわかる 眠れないのなら 眠らなくてもいい と言っている気もする

須永朝彦『就眠儀式』、ボルヘス『汚辱の世界史』

就眠儀式―須永朝彦吸血鬼小説集 (1974年)作者: 須永朝彦出版社/メーカー: 西沢書店 名著刊行会発売日: 1974メディア: ?この商品を含むブログを見る 須永朝彦の処女小説集。連作短篇の形式で耽美としか言い様のない吸血鬼の世界が繰り広げられる。たまたまこ…

方向感覚

駅ビルの中で方角を見失ってしまう エレベーターの混雑や エスカレーターの昇り降りで 心は6Fあたりをいつまでもさまよう 閉店間際に ようやく辿り着いた書店では 探している本は見つからなくて 帰り道に喫茶店の前を通りがかると ガラスに甲虫が張り付いて…

繋がれた犬

スーパーの駐車場に 小さな犬が繋がれていた 妙におどおどした態度で あたりを見回している 近寄って撫でようとしても 触れようとする手を避けて 絶対に撫でさせないのだ きっと飼い主は 買い物に勤しんでいるのだろう 野菜、肉に魚 玉子、豆腐、菓子パン ポ…

蛍光灯

蛍光灯が明滅している 何度か取り替えたのだけど 変わらずちかちかしている アパートの前にタクシーが止まり 客を降ろして走り去った と思うと、降りた客が追いかけて 行きかけたタクシーをもう一度止めた 忘れ物をしたらしい もう何日も前から 試用期間の切…

気がかりについて

遅い帰り道は 雨に濡れててらてら光る 路側の白線に沿って歩くと 導かれているようで なんだか安心する そう 怖いものは何もない たとえば気づかずに かたつむりを踏みつぶしていた なんてことも 階段を上がる ドアを開ける 部屋の中の暗さが殺到する 靴を脱…

鹿島茂『パリ時間旅行』、横江文憲『ヨーロッパの写真史』

パリ時間旅行 (中公文庫)作者: 鹿島茂出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1999/07メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 11回この商品を含むブログ (8件) を見る 研究者がオタク心を丸出しにして書きましたという感じの楽しいエッセイ。なにせ自分でタイムマ…

六月通信

誰が触れたの あのあじさいはうつつ 電話が鳴ると いつも人が消える 挨拶をするたびに 息の中を遠ざかっていく 音もなく 暗がりの横顔は白く また手紙を書くよ 流れ流れてゆくのなら きみのために 六月の雨

黒猫

泳ぐ人々の 夢で見られた 歌の練習をした廃屋に きみの写真が飾ってある と言ってくれたっけ でもそうやって 憧れているわけにもいかない 細かな雨をまとった電車は 地面の下に 郊外を滑り落ちていく あの柱時計の周りを行けば きっと会えるかもしれない 枝…

飯島耕一『宮古』、『映画秘宝』2011年 01月号

宮古―飯島耕一詩集 (1979年)作者: 飯島耕一出版社/メーカー: 青土社発売日: 1979/06メディア: ?この商品を含むブログを見る 戦後意識を詩にしてきた詩人が、「戦争と戦後の影響のもっともなかった島」という宮古島への訪問と自身の鬱病からの回復を重ねて描…

『澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集』、『ドラキュラ ドラキュラ』

澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集 (河出文庫)作者: 澁澤龍彦出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2013/02/05メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (5件) を見る 『怪奇小説傑作集 フランス編』からの再録とアンリ・トロワイヤ『共同墓地 …

小林章夫『地上楽園バース』、スーザン・ソンタグ『夢の賜物』

地上楽園バース―リゾート都市の誕生作者: 小林章夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1989/07/26メディア: 単行本この商品を含むブログを見る イギリスの温泉地バースの軌跡を辿る一冊。ローマ人に見出されて一度は廃れたものの、一人の賭博師の手によって繁…

『オトラント城 / 崇高と美の起源』、三杉隆敏『海のシルクロードを調べる事典』

[第4巻 ゴシック] オトラント城 / 崇高と美の起源 (英国十八世紀文学叢書)作者: ホレス・ウォルポール(オトラント城),エドマンド・バーク(崇高と美の起源),千葉康樹(オトラント城),大河内 昌(崇高と美の起源)出版社/メーカー: 研究社発売日: 201…

小谷真理『ファンタジーの冒険』、十辺千鶴子『世紀末ロンドンを翔んだ女』

ファンタジーの冒険 (ちくま新書)作者: 小谷真理出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1998/09メディア: 新書購入: 2人 クリック: 8回この商品を含むブログ (9件) を見る ファンタジーを時代のカウンターカルチャーと定義した上で一九世紀以降の流れを紹介する…

人魚

夜明け前にはいつも街路樹が一瞬だけ背伸びをする 夜のうちに出されたゴミ袋は浅く水たまりに浸かって少しの間まどろんでいる生きていた時のこと本当に言ってほしかったこと使い古しの花瓶は砕けてどの夢もただの思い過ごしとして消えてしまうのだろう閉じた…

フランティシェク・クプカ『カールシュタイン城夜話』、土屋恵一郎『怪物ベンサム』

カールシュタイン城夜話作者: フランティシェククプカ,Franti〓ek Kubka,山口巖出版社/メーカー: 風濤社発売日: 2013/02メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 神聖ローマ帝国皇帝にしてチェコ王であるカレル四世の無聊を慰めるために、三人の廷臣と時…

メルヘン

夜中に目が覚めて屋上の鉄がさやさやと鳴り滴りの下で首を引っ掛けては結びあやとりが永遠に終わらないとしたらどうする?人かとも見える群れは腕をどこまでも伸ばそうとして川に浸っているのがここからはよく見えるよ判子のように押されている影をこの世に…

ダンテ『神曲』

神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1)作者: ダンテ,平川祐弘出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/11/04メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 57回この商品を含むブログ (57件) を見る 十数年ぶりに再読。この文庫版は注釈が懇切でわかりやすかった。「ダンテ…