『澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集』、『ドラキュラ ドラキュラ』

澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集 (河出文庫)

澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集 (河出文庫)

『怪奇小説傑作集 フランス編』からの再録とアンリ・トロワイヤ『共同墓地 ふらんす怪談』諸篇を収める。前半は既読だったがあらためて翻訳の冴えに陶然とし、美しい文章はそれだけで再読に耐えるとの思いを新たにした。加えて『共同墓地』は洒落た好篇揃いでかなりのところ楽しめる。特に「むじな」「黒衣の老婦人」の得も言われぬ味わいには感服。どちらも舞台のムード作り、不思議な余韻を残す結末がいい。もちろん前半のサド「呪縛の党」の幻想、ユーモアたっぷりのノディエ「ギスモンド城の幽霊」も素晴らしかった。大満足。

薔薇十字社版からの文庫落ちアンソロジー。ブラム・ストーカー以前の吸血鬼小説の嚆矢であるポリドリ「吸血鬼」を始めとして珍品が揃っている。メリメ「グスラ(抄)」の土俗が匂い立つ研ぎ澄まされた文体、細かい章立てと言語遊戯が朦朧とした世界を醸成するアルトマン「ドラキュラ ドラキュラ」がヒット。ただ全体としてみればどうにも地味で退屈な印象。吸血鬼ものが好きで好きでたまらない人なら一応押さえておいてもいいかも。