マンディアルグ『燠火』、『伊勢物語』

 

 7篇を収めるマンディアルグの第三短篇集。執拗なまでの記述が夢想を呼び出し、夢想の中に、もしくは石や宝石の「内部」へと思考が侵入して幻想と出会う。出来事を楽しむというよりは記述を楽しむタイプで、そうした作家は訳が重要なのだけど、生田耕作による訳文はちと直訳調でつらい。お気に入りはインスピレーションを物語に仕立てた風の「裸婦と棺桶」。

 夢想家にせよ、読者にせよ、著者にせよ、あなたがたの出来事の、また生活全体のひと齣ひと齣は、雲の上に寝ころがった酔っぱらいの夢想の中の、微々たる一瞬か、それとも、たぶん、宇宙がそこから生まれ出た広大無辺な子宮の底のこそばゆい痙攣程度にすぎないのではないでしょうか? 棺桶屋の店の外も、あなたがくつろいでいらっしゃる部屋の外も、大いなる暗闇です。餌食を求めて行き来する救急車のうなりがあなたに聞こえますか?

ちなみに本書収録の「ダイヤモンド」は、澁澤龍彦「犬狼都市」の原案。 

 

伊勢物語 (岩波文庫)

伊勢物語 (岩波文庫)

 

 註釈がなくほぼ原文を読む形になるので、ざっと目を通すだけになった。それでも「筒井筒」のエピソードや「ちはやぶる神代もきかず龍田川…」などの有名歌の初出に触れられたのはありがたい。いずれ現代語訳も。