『辻征夫詩集』
ユーモラスでシニカルで、噛んで含めるような優しい語り口。この詩人が感じている夢と現実の混淆した世界観を丁寧に表現しようと努めていて、自分などはとにかくその専心する態度が印象に残った。よくよく読んでいくとシビアな生を送っている節があり、それをこんなに楽しい詩に加工するのは並大抵のものではないと思う。曲芸師的な手業というか。
空地の
草と共棲する
錆びた 針金が
めったやたらに
からみついて
まるで驚愕と
いう字みたいな
かんじになって
しんとしている
(「星」)
引用や句などを枕に、というか呼び水にして展開されるそれは、表向きは抒情詩として描かれるし詩人自身もそう考えているようではあるけれど、単に「抒情」で片付けられるものではないと思う。もっと巨大な未分の領域があって、引用などの媒体を経てそこから引き上げたものが詩人により詩に仕上げられる。そして、そういった詩の操作と同じように、詩人も己自身が媒体であることを意識していて、一種のフィルターに徹することを選んでいる。自己を断念してフィルターに徹するところにこの詩人の強さがある。