ダンテ『神曲』

神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1)

神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1)

十数年ぶりに再読。この文庫版は注釈が懇切でわかりやすかった。「ダンテが建築した大伽藍は、一瞥して全貌を捉えようとするには、あまりにも巨大である。(…)ダンテの手にかかった犠牲者の歯をむき出した切り落とされた首や、身の毛もよだつような首のない屍体は、実は大伽藍の水口の恐ろしい形をした樋嘴なのである。」細部と全体の関係を考える上でもこうしたモデルは常に意識しておきたい。レトリックに従えば、特に地獄篇は苦痛や屍体で形作られた迷宮の旅ということになる。

神曲 煉獄篇 (河出文庫 タ 2-2)

神曲 煉獄篇 (河出文庫 タ 2-2)

「永遠の劫火は地獄であり、一時の劫火は煉獄である」 つまり天国行きを約束された上で罪を浄めるのが煉獄になる。下りから一転して上りへと移行するのだが、道徳的な訓話、古代や当時のローカルな話題が大半を占め、知識のない人間には興味を持続させるのが難しい。ただ、煉獄の山の構造(地獄の裏返し)や、いつまでも薄明が続くかのような雰囲気は悪くない。

神曲 天国篇 (河出文庫 タ 2-3)

神曲 天国篇 (河出文庫 タ 2-3)

冒頭のダンテの言葉「沖合に出るな。君たちはおそらく私を見失い、途方に暮れるにちがいない」に従って気持よく読み飛ばした。どうせまともに読んでも眩しさに目がくらんで何も見えなかっただろう。しかし旅の終わりに光の深みにあった「一巻の書」は、やはりボルヘスのあれなのだろうか。「アレフ」を思わせる表現も散見されて気になるといえば気になる。