フランティシェク・クプカ『カールシュタイン城夜話』、土屋恵一郎『怪物ベンサム』

カールシュタイン城夜話

カールシュタイン城夜話

神聖ローマ帝国皇帝にしてチェコ王であるカレル四世の無聊を慰めるために、三人の廷臣と時には王その人によって語られる21の物語。男が集えば女の話になるのは当然とばかりに各章は女性にまつわるもので、悲恋あり、艶笑あり、神の導きや数奇な運命ありと、バラエティに富んだ語りが繰り広げられる。禍々しい装画に惹かれて手に取ったがさにあらず、年代記などを緻密に織り込んだ骨太な物語の数々は、聞けばナチス・ドイツ占領下にあるチェコの人々の精神的な支えとなったらしい。自分も暖かい雰囲気の中で楽しく夜々の語りに耳を傾けた。

怪物ベンサム 快楽主義者の予言した社会 (講談社学術文庫)

怪物ベンサム 快楽主義者の予言した社会 (講談社学術文庫)

フーコーの論によって広く認知されたパノプティコン(一望監視装置)の提唱者ジェレミーベンサムは、現在でもロンドンでそのミイラ化した姿を見ることができる。一八世紀、「最大多数の最大幸福」を掲げて功利主義者として出発した彼は、政府に近い場所にパトロンを得る。時に恋に破れ、時に弟を助けるためにロシアへ渡り、独特の快楽主義的な論理を振りかざして頭角を現していく。本書ではそんなベンサムとともに同時代の著名人に多くの紙幅が費やされており、一時代の空気が匂い立つ。この時代から現代にまで続く諸々が生まれたのだなと。