巴旦杏

女の子が一人で

木陰に立っていて

それが朝からずっといるし

ここらへんでは見ない子だから

なんだか不思議だなあと思う

誰かを待っているのかな

それともかくれんぼをしているうちに

家に帰れなくなった子が

生きることも死ぬこともできず

途方に暮れているのかな

ちょっと気になって

声をかけてみようと近寄っていったら

女の子ははっとした表情で

こちらを見て

特に言葉を交わすわけでもなく

わたしも金縛りになったようで

なにを言うでもない

二人とも黙ったままで季節はめぐり

木には赤い実がたわわに実り

下から見上げると

無数の提灯が下がっているようで

女の子の小さな頬も

うっすらと赤かった