『怪奇小説日和』、中井英夫『幻想博物館』
なかなか豪華なラインナップだけど微妙に中心をずらしている感があって、いい意味で落ち穂拾いっぽさのあるアンソロジー。岩壁がひきだしになっているというシュルレアルな発想のヨナス・リー「岩のひきだし」、時々入り交じる異様なテンションが読みどころのシール「花嫁」、得体の知れなさをストレートに提示するハーヴィー「旅行時計」がお気に入り。逆にエリザベス・ボウエンあたりは技巧的すぎてピンとこなかった。長いのもちょっとな。巻末の論考は読ませる。
それぞれの短篇としての完成度もさることながら、ひとつひとつが連関し、あるいは互いを打ち消していびつな全体を形作る。「大望ある乗客」の冷笑的な企て、「地下街」の完成度の高さ、「薔薇の夜を旅するとき」のロマンチシズムと、読者の盲点から首元にまで迫ろうとする姿勢が、たちまち作品世界に資することになる。この魔術的な手際には心底酩酊させられてちょっと抜け出せそうにないくらい。未読の中井英夫作品を思うといよいよ胸が高鳴る。