パトリシア・A・マキリップ『妖女サイベルの呼び声』、中井英夫『墓地―終りなき死者の旅』

 

妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1)

妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1)

 

 幻獣を従えて山深くに住む魔女が、その血の縁によって王子を託され、さらには人の世に担ぎ出されて愛と憎しみを知っていく…といって読み進めていくとこれが感情の機微を丹念に追う話で、細やかな書きぶりに圧倒されてしまった。ファンタジーなのだけどあくまでもメインは内面のドラマであって、葛藤のひとつひとつが主人公サイベルの歩みとなって物語を進めていく。決して賢明なだけではない、時に愚かにもなるサイベルの姿が眩しい。

余談。「ロマルブ」と伝わる正体不明の妖怪の名を掌握する際、名前を裏返して「ブラモア」と真の名を掴むのが、裏も表もあまさず掴んでやった感があってかっこいいですね。

 

墓地―終りなき死者の旅 (1981年)

墓地―終りなき死者の旅 (1981年)

 

各地の墓を訪い失われた過去を眺め、まるで自らも死者であるかのごとく過去へと分け入っていく。なかばこの世を離れて世界を眺める目線は健在で、自分がこの書を読むことによって、今は泉下となった人が墓から起き出て語ってくれたようにも思った。『虚無への供物』で扱われた洞爺丸事故の遺族とのエピソード、天明の大噴火に見舞われた鎌原観音堂と軽井沢の話が印象に残る。