平田俊子『手紙、のち雨』、ヨーゼフ・ロート『聖なる酔っぱらいの伝説』

 

手紙、のち雨

手紙、のち雨

 

 詩集。平易な言葉でファンタジーの匂う中に、どこか取り返しのつかない不穏さが漂う。それは誰かが去ったあとの空虚を埋めたいという思いだったり、空虚さの前で呆然としながら事態の進行を見つめる居心地の悪さだったりする。劈頭の「タイトル会議」は死者が寄って集って詩集のタイトルを考えるというもので、顔見知りや親戚から、はてはゴーリキーやにわとりまで現れるとぼけ具合が楽しい。「『どん底』とゴーリキーがいいました/『ぼんじり』と死んだニワトリがいいました」

 

聖なる酔っぱらいの伝説

聖なる酔っぱらいの伝説

 

 第一次大戦後に活躍したユダヤ系の作家ヨーゼフ・ロート短篇集。収録の三篇ともに主人公の性格に浮世離れして不器用なところがあり、かつ善性を感じさせて高貴な印象がある。表題作は「わらしべ長者」風で大らかな味わい、「四月、ある愛の物語」は小さく変哲のないものへの注目が不思議と幸福感を誘い、そして「皇帝の胸像」は時代の変転から取り残された貴人の矜持と悲哀が胸に迫る。二つの大戦の間にぽっかりと開けた日溜りのような、ささやかに味わい深い一冊。