パトリシア・A・マキリップ『影のオンブリア』、山口由美『帝国ホテル・ライト館の謎』
国王の死によって権謀術数の場となった都オンブリアと、その裏面で過去が層をなすもうひとつの影の都、二つの間でくり広げられる魔法の物語。不安を抱えて所在が定まらない人物たちが靄の中を行き来するようで、訳が合わないこともあって苦戦しながら読み進めたが、むしろ淡彩の幻想世界が際立って良かったかもしれない。壁の中の迷路、地下世界、顔のない魔法使い、蝋人形の少女…と、振り返ってみるとなかなかに直球ではあるのだけれど。煙に巻く結末もいい。
帝国ホテル・ライト館の謎―天才建築家と日本人たち (集英社新書)
- 作者: 山口由美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/09
- メディア: 新書
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帝国ホテル・ライト館に関わった人々の姿を追う。設計者ライトがかなりアクの強い人物だったようで、タリアセンの惨劇はライトの不倫が原因にあるのではないかという疑惑、帝国ホテル設計の盗作疑惑なんてものもある。ライトの印象も人によっては惚れ込んだり猛烈に嫌ったりと様々で、悲劇的な末路を辿って愛憎半ばする人もいる。辰野金吾を批判してライトについた弟子の遠藤新、帝国ホテルを建て直した高橋貞太郎の名前は覚えておきたい。あとやっぱり地震で被害を受けたし居住性は最悪だったらしい。