田中友子『ビリービンとロシア絵本の黄金時代』、堀江敏幸『めぐらし屋』

 

ビリービンとロシア絵本の黄金時代 (ToBi selection)

ビリービンとロシア絵本の黄金時代 (ToBi selection)

 

 ロシアの民俗に取材し、アール・ヌーヴォーやユーゲント・シュティール、ジャポニスムの影響が見られる。19世紀末からのロマン主義的な盛り上がりの中で古いロシアを題材に描き続けたとのこと。印刷技術の発達も大きい。それにしてもレニングラード包囲戦で亡くなっているとは…。

 

めぐらし屋 (新潮文庫)

めぐらし屋 (新潮文庫)

 

 父の遺品整理中に見つけた「めぐらし屋」という言葉をフックに、主人公の生活が丹念に描かれる。日常の微細な描写が過去を呼び覚まし、折り重なった記憶が現在をゆるやかに揺らす。堀江敏幸の名人芸とも言える筆致なのだけど、今回は主人公と自分の不調が変に同期してしまって、読んでいて少し気疲れしてしまった。

オンオフの乱雑さではない、階調を描く文章…

部屋のなかが、すうっと暗くなる。電灯を切ったのではなく、調光器のつまみを急いでオフのほうにまわして、おびただしい段差をなめらかに滑っていくのに似た光の落ち方だ。