中井英夫『悪夢の骨牌』、H・R・ウェイクフィールド『ゴースト・ハント』

悪夢の骨牌 (1973年)

悪夢の骨牌 (1973年)

初・中井英夫。長らくネームバリューに怯んで手を出せなかった。十二篇の連作から成る本書は、失踪した二青年から送られてくる現実とも妄想ともつかない物語を追ううち、次第に時間と空間を越えた魔性の領域に突入していく。夢から夢へと蹌踉と歩を進めると、自身の存在のあやうさが、果ては世界のあやうさが一挙に押し寄せ、認識を凶暴に揺さぶる。この感覚は幻想文学ならではのもの。今まで等閑にしていたのを深く後悔した。可能な限り他の本も読もう。

第2回(1974年)泉鏡花文学賞。なお、この版には「薔薇の獄」は未収録。

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

M・R・ジェイムズの衣鉢を継ぐとのことだが現代的で軽く、幽霊屋敷にまつわる話が多数を占めるものの、なんだかアンソロジーの埋め草を次々に読まされているようで薄味に感じた。いかにもな怪奇趣味を期待してたので少し拍子抜け。ともあれ、「ポーナル教授の見損じ」「彼の者、詩人なれば…」「蜂の死」あたりはなかなか楽しめる。「蜂の死」くらいになるともはや怪奇小説と言っていいのか怪しいけど、これもまたジャンルの懐の深さの証だな。