論文メモ(十月の夜、クーブラ・カーン、自然の鉛筆)

『十月の夜』発表当時のレアリスムの起源と流行について、そしてネルヴァルがレアリスムに対してどのように応じたかを論じる。レアリスムは「庶民」の現実を描くことで彼らを等閑視してきた芸術に異議申立てするという側面があり、ネルヴァルは同調しながらも、やはり自身にとって圧倒的なリアリティーを持つ夢の世界を描くことを選んだ。彼にとっての「絶対の真実」と大衆的なレアリスムの間には溝がある。

上の論文と同じく、レアリスムを超えた「超レアリスム」というべきネルヴァルの方法を『十月の夜』の読解から析出する。夢と現実、すべてを含む「私」を対象化するレアリスムはネルヴァルの他の作品にも及んでいる。批評的な観察者として、読者として、自身の狂気をいかにして語らせるか。「私の永遠の夢にただ忍従するのではなくかえってそれを支配する力を、残してくれるように願う」

コールリッジのオリエントへの憧れを論じる。オリエンタリズムを持っているのは読めばわかるが、その思想的な背景が知れたのは収穫。ヘブライの神の概念に新プラトン主義を重ね、近代のドイツ観念論を援用した。

ページに直接写真を貼り付けた史上初の写真集である『自然の鉛筆』は、テクストとイメージが緊密に組み合わされた空間を持つ。ゼーバルトの読者としては馴染みのある形態とはいえ、最初期の写真集においてすらそのような読みが可能というのは興味深い。「コピー」としての写真は頭にとどめておきたい。