加藤郁美『切手帖とピンセット』、クラーク・アシュトン・スミス『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』

切手帖とピンセット 1960年代グラフィック切手蒐集の愉しみ

切手帖とピンセット 1960年代グラフィック切手蒐集の愉しみ

様々なテーマ・国ごとに良デザインの切手を紹介し、合間に荒俣宏岡谷公二といった著名人による切手コラムを掲載する。「かわいい切手本」は数あれど、その中でも本書はかなりクオリティの高いほうではないかな。架空の国の切手を描き続けたドナルド・エヴァンズのエピソードが印象に残る。

「考えてみれば、切手を生み出した『郵便』というシステムじたい、迷路的である。郵便の出し手がポスト(迷路の入り口)に手紙を入れると、郵便物は枝分かれしたルートから一つ一つのルートをそのつど選択しながら郵便受け(迷路の出口)まで旅をする」

アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚 (創元推理文庫)

アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚 (創元推理文庫)

フランスの架空の一地方・アヴェロワーニュを舞台とした幻想的な諸篇、および降霊術にまつわる綺譚を収める。中世の土俗的な雰囲気と適度にパルプな展開で、重すぎない物語は次々と倦かず読ませる。アヴェロワーニュはややファンタジー寄りか。また、ラヴクラフトとも交流があったとのことで時折出てくるクトゥルーネタも楽しく、特に降霊術の話にそれが顕著。時空のスケールに眩惑される「アフォーゴモンの鎖」と、皮肉で愛らしい「分裂症の造物主」が気に入った。絶妙に愉しい一冊です。