岡田刀水士『灰白の蛍』、『新川和江詩集』
岡田刀水士『灰白の蛍』
岡田刀水士の遺作。前詩集『幻影哀歌』で到達した幻影の領域をさらに推し進めた詩世界を展開している。ここに描かれているのは死後のもしくは未生の世界であって、現実と同じような論理はほとんど通用せず、叙述は混迷に混迷を極める。正直言うと何が書いてあるのかよくわからないし、これを校正した後に亡くなったと聞いて納得してしまう。それほど現実の領域から離れた詩集でここまで凄まじいものは他に憶えがない。人のなし得る極限的なテキストだと思う。
経歴を見ると少女雑誌等に詩を書いていたとあって、そのためなのか読む人をきちんと意識してメッセージが伝わるのを確信している節がある。意を尽くした詩は高水準のものばかりで次から次へと安心して読み進められる。ただしエッセイから読み取るに、裏側にはどこか人生をこざっぱりと見切っているところが窺え、だからこそ表現に徹しているようでもある。仕事をきっちりこなす職人タイプというか、そのペースに乗っている限りはとてもいい。特に子供に呼びかけるものやメルヘン風のものは絶品だ。
根源への共鳴があって、それゆえに『土へのオード』『火へのオード』『水へのオード』という各詩集にあらわれているように世界を成り立たせているものへの注目になり、生と死、神や母といったものへの接近にもなる。代表作とされる「私を束ねないで」を読む限り、それは「詩」でもある名付けえぬ広がりなのだろう。根源的なそれと和して歌われる詩には愛情と残酷の両方が息づいている。