『佐々木幹郎詩集』

 

佐々木幹郎詩集 (現代詩文庫 第 1期76)

佐々木幹郎詩集 (現代詩文庫 第 1期76)

 

 学生闘争の狂熱からスタートしてひた走る。力がみなぎっていてちょっと圧倒されるが、次第に声は響きを整えて人間の地帯を過ぎていく。「無い言葉 無い炎 無いものの流れるうてなに/意味もなく魅入られて/それがすべてだ」(「流れるうてなに」) 虚無的な目線で世界を眺め、それらを「無い」といってもあとに何か残るものがある。彼方に引き寄せられながら、その何かを歌っていく。

 

続・佐々木幹郎詩集 (現代詩文庫)

続・佐々木幹郎詩集 (現代詩文庫)

 

言葉の響きへの注目、よりダイレクトな言葉の始原へ、名付けえない詩そのものへと接近していく。引用や共作といった手法で他者の声を取り込むなど苦労しているがやはりもどかしく、やがて言葉を超えた世界の実相へと近づく。ついにはヒマラヤにおいて神秘体験を得て、憑き物が落ちたかのように詩は性格を変える。このことについて、解説の加藤典洋の言うようにあまりに詩人的なポーズが鼻につく向きがあるかもしれない。個人的には詩をラディカルに推し進めればこうなると思っているので、むしろヒマラヤ体験以降の詩は好ましかった。