『辻井喬詩集』

 

辻井喬詩集 (現代詩文庫 第 1期63)

辻井喬詩集 (現代詩文庫 第 1期63)

 

流竄者を思わせる孤立の場所から書かれる詩は、観念的な色を帯びながらもたしかな歩みを見せる。具体性を欠いてはいても意志の強さが窺えて、ただ自分などはこれが頑なさに感じられて入り込めなかった。単純に一篇一篇が微妙に長めということもあるし、この持続する意志が言葉を乱れ撃つ方向に進むともうだめだ。この人は立場や経歴が特殊で、読んでいるとどうしてもそれがちらつく。大変だろうなと同情はするのだけど。

 

続・辻井喬詩集 (現代詩文庫)

続・辻井喬詩集 (現代詩文庫)

 

 潰えた闘争と自身の現実の間で板挟みになり、詩の領域で夢を切り拓こうとしたというのがこの詩人だと思っていたが、読み進むにつれて決してそれだけではないところが見えてきた。夢は日本的叙情へと通じ、立ち止まって野の花に目をとどめるにしても、扼殺された抒情をもう一度検討し直す意図がある。また、情報化社会の文化と言葉の問題を詩に呼び込んで、大きなパースペクティブで戦争をも俎上に上げる。こうした驚くほどの視野の広さは疎かにしていいものではない。現在でも最重要の一人ではないだろうか。