『藤富保男詩集』、『岩成達也詩集』

 

藤富保男詩集 (現代詩文庫)

藤富保男詩集 (現代詩文庫)

 

 「蜜柑色の灯台に/翼に雲をはさんだ二枚のかもめ/なんだかとても どうでもいい/と思う」(「蜜」) 言葉から言葉、行から行、連から連と、意味を引きずらず飛躍に飛躍を重ねて軽やかに進む詩は、それが詩的冗談であることに一切を賭けられている。北園克衛西脇順三郎の影響が如実に読み取れるとはいえ、もっと言葉に対する肉体的な感覚で書かれているようだ。深刻ぶった身振りのない、時には文法さえかわす陽性のポエジーが心地よい。

きみがすきだ を

きらう

きみが

すてきに

す き だ

 

(「一人の人間のなかの孤独は」)

 

岩成達也詩集 (現代詩文庫 第 1期58)

岩成達也詩集 (現代詩文庫 第 1期58)

 

 なにか定かではないものの細密描写を読んでいくうちに自分は何を読んでいるのかという問いを宙吊りにされ、詩の中で方向を見失うとともに詩の外形自体もあやふやで確定できない。硬すぎるほど論理的な記述で成り立つそれは、現実の世界に働くものをなぞっているように見えて実はありえない論理にはぐらかされている。そのありえない論理をあらしめる幻想の構造図とでも言おうか。しかし記述があまりに込み入っており、金井美恵子の解説が及び腰なのにも同情してしまった。はまる人はとことんはまりそうな現代詩らしい現代詩。