『清水哲男詩集』
出発を高らかに歌うような態度ではなくて、年をとることを自ら望むようなひねくれた態度…と読み進めていたら、詩集『スピーチ・バルーン』に度肝を抜かれた。ナンセンスと抒情を融合して戦後詩の重みを振り払った詩集で、これは当時のエポックだったんじゃないだろうか。よく「チャーリー・ブラウン」一篇だけ引かれているけど他のも良かった。吉増剛造を評して「それまでの現代詩の世界を支配していたストイシズムと無縁なところに位置していた」としているが、この詩人もそのようなところがある。
僕らは軽く手をあげるだけで
死ぬまで別れられるのである
(「ミッキー・マウス」
生活感情から独白へ、記憶へ、多く身体の感覚を元にして詩が書かれる。名人芸を見るかのように語り口がなめらかで、あまりに巧すぎてちょっと目が滑ってしまったところがないでもない。でもこの語りの運動に身を任せるのもいいと思う。
「スピーチ・バルーン」とは漫画の吹き出しのことで、本書はチャーリー・ブラウンや鉄腕アトムといった往年のキャラクターにオマージュを捧げた詩が20篇収録されている。ナンセンスでポップで時代の重さを振り払った…といっても詩自体はまだわりと骨太でもあって、各詩篇に添えられた漫画との相乗効果で見るべきだろう。詩文庫で読んだが手元に置きたくなって買い直した。たたずまいが良くて持ってると気分がいい詩集。