『粕谷栄市詩集』
前に雑誌「詩学」で初めて触れてから折々読んでいたのだけど、ようやくまとまった形で読むことができた。現実では生活の中にしっかりと足場を持ちながらもそれだけでは解消できない何かがある。その何かを求めて半身を闇に浸して片手で手探る運動が、魂の暗部の模様を散文詩の形で伝える。現実を屈折させればさせるほどに闇は濃厚で、この一冊の中でも屈折率の高そうなものほど読んでいて楽しかった。いや本当にこの人は詩を読む愉悦を味あわせてくれる。詩集を集めよう。
自分だけの暗黒の灯を点し、そこで、何かを掘っていると、私は、全ての不安を忘れるのである。敢て、私の労働に係わりなく、それは、私の厖大な資産なのだ。
(「坑道」)
基本的には生を暗黒のフィルターに通すことで幻想を立ち上げるところで一貫しているが、もはや虚の幻想そのものが膨れ上がって裏側から我々の世界を襲っている感がある。地と図の関係のような世界の二重身は詩人をはるかに越えた邪悪な謎を提示しているようだ。
それらは、おそらく、私だけの鏡だけに映った狂った事実である。だが、他人には、全てが、邪悪な偽りだったとしても、私は、私を生きなければならない。私は、私を、生きなければならないのだ。
(「破局について」)