『吉増剛造詩集』

 

吉増剛造詩集 (現代詩文庫 第 1期41)

吉増剛造詩集 (現代詩文庫 第 1期41)

 

 言葉を、イメージを、全宇宙の瓦礫を装填して次々と撃ち出す運動の激しさでは、おそらく現代詩人の中でもトップクラス。この巻には初期の詩が収められており、60年代の激しくも新鮮な詩業が見渡せる。「ぼくは詩を書く/第一行目を書く/彫刻刀が、朝狂って、立ちあがる/それがぼくの正義だ!」「剣の上をツツッと走ったが、消えないぞ世界!」(「朝狂って」) 猛スピードのままに疾走しながら、運動は徐々に螺旋を描いて、力の湧き出る場所に向かっていく。外側が激しいあまりに相対化される中心、その幻想が渦を巻く領域へ。

 

続・吉増剛造詩集 (現代詩文庫)

続・吉増剛造詩集 (現代詩文庫)

 

 <中心>を求める旅は死者と呼び交わし地獄を通過しつつ、長篇詩「恋の山」において決定的な何かに出会った感がある。それは朗読を通じて意識された<リズムの魔>でもあるし、あるいはそれこそ詩的エネルギーの中心から迸る一条の道であったのかもしれない。ともかくそのような魔とも精霊ともつかない存在との合流を果たし、以降の詩は土地の、記憶の、そして己のうちにある彼らとの多声的な舞台の様相を呈していく。正気と狂気の境界線が詩人の中にあり、互いに侵犯しあっているようだ。

舟ヲ一艘用意サレタシ。一人ノ乱心者ガ彼岸ヘ渡ル、舟ヲ一艘用意サレタシ。

 

(「アドレナリン」) 

 

続続・吉増剛造詩集 (現代詩文庫)

続続・吉増剛造詩集 (現代詩文庫)

 

 疾走から歩行へ。しかもその歩行は二重にも三重にも像の重なった、ほとんど残像のような歩行である。彼方から去来する響きに耳を澄まし、土地の上に土地が、記憶の上に記憶が、声の上に声が幾重にも織り込まれる(リフレインがその感を一層強くする)。自然、詩はいや増しに形を崩していくが、初期のような猥雑さは影を潜めて、むしろ静けさが際立つ。「絵馬、a thousand steps and more」の舞踏的な身振り、「オルガン」のささやかな風景に入り交じる宇宙的な感覚などは特に忘れがたい。