『宗左近詩集』

 

宗左近詩集 (現代詩文庫 第 1期70)

宗左近詩集 (現代詩文庫 第 1期70)

 

 『炎える母』は戦時の空襲体験をもとにした極限的な作品。炎の中で見捨ててしまった母への鎮魂と自責の念が、陶酔的で切迫感をともなった言葉で綴られる。書かれている内容の凄まじさに圧倒されつつこの悲惨に美しさを感じる自分もいて、詩というものの恐ろしさを思う。ただ、『炎える母』で表現の底を割ってしまった節があり、以降の詩はどこか壊れたまま題材を変えてのリハビリのように思える。そのいたるところに見え隠れする母の姿。おそらくこの詩人は一生涯、体験から離れられないのだろう。

 

続・宗左近詩集 (現代詩文庫)

続・宗左近詩集 (現代詩文庫)

 

 母や友人の死を己の罪として引き受ける意識は、自己否定に否定を重ねるあまりに詩人を死者として立たせる。死者の目から見られた世界は奇妙に空々しく、たとえ詩の上で性愛や生活のようなものが歌われていても、その全てが虚無に、あるいは虚無である宇宙感覚のようなものに回収される。内容だけでなく表現の上でもそれは顕著で、技巧や修辞は置いてきぼりのままになりふりかまわず書かれているようだ。この振る舞いが奇異に映るとしても、死者の狂いをその身に引き受けなければならなかった一生を思うと胸が詰まる。