『中村稔詩集』
ソネットを多用して風物に心象を見出すことから、ささやかに高踏的で典雅な印象がある。自分がはじめてこの詩人を知ったのは宮沢賢治の編者としてで、詩業を見渡してみると賢治から影響を受けつつも、生々流転の現実の中で己を客観視して詠嘆に流している。「ああ 私たち旅客/この星のわずかな地表を擦過し/余儀ない旅をひたすら続けゆく者!」(「上野駅にて」)
風物に託して心象を歌うのは一貫しているものの形式はやや崩れがちで、生活や社会のことが現れてくる。自然と己を重ねあわせた位置から人間を眺めるわけで、そこから文明批評的な詩を書かれるとちょっと説教臭い。解説でも「アナクロニスム」とか言われているし、まあアナクロを貫いたのがこの詩人の凄いところなのだろう。