『ノディエ幻想短篇集』、『コクトー詩集』

 

ノディエ幻想短篇集 (岩波文庫)

ノディエ幻想短篇集 (岩波文庫)

 

 伝承文芸の流れを汲みつつそれを夢と狂気で押し拡げてロマン主義への橋渡しをした、というところだろうか。夜の夢に現れる幻想を多重構造と憑かれたような筆致で描いた「スマラ(夜の霊)」はもはや超現実へと足を踏み入れるほどで、読んで面白いかは別としてもこれを記述し得たことが意義深いと思う。眠りに落ちる間際の言葉がいくらでも湧き出てくるあのひとときのような物語。また、ノディエが一人の狂人に託して己の幻想観を明かしてみせる「青靴下のジャン=フランソワ」も良い。恋と狂気が別世界への通路になる。

 

コクトー詩集 (新潮文庫)

コクトー詩集 (新潮文庫)

 

 行から行へとめまぐるしく内容が移り変わり、統一的なメッセージを読み取るのはなかなか難しい。運動の中にこそ詩情が宿るという考えだったらしく、飛躍をくり返す様はかなりダダに接近している。同じように、詩集単位でも作風を変えているようだ。このローリングストーンな感じからコクトーの他の活動を合わせて考えてみると面白いかもしれない。