『吉岡実詩集』
なんといっても「僧侶」が素晴らしくて、「苦力」など他にいくつかいいものがあるといっても、これ一作だけで十分ではないかとさえ思う。ある程度の継起的な筋は保持したままシュルレアルな風景をユーモアを交えて繰り広げる作品が面白くて、言葉とイメージを浪費するタイプのものは駄目。体言止めを多用していちいち流れが止まるが、決まっている部分は決まっている。しかしまあやっぱり「僧侶」だよな。歴史に残るレベルの大傑作。
思ったより感覚で書いている人で、身体がそのまま詩に表れていると考えてよい。世界は吉岡実という詩人を通して蝟集するかのごとく形をなし、猥雑な風景を読者に提示する。詩人が偏愛するところの卵の中に孕まれている混沌のイメージ、それが詩人であり詩であるのだと。そうして内部で純化された詩はきれいに整えられるわけではなく、引用という外の声をも引き込んで混乱を極める。まともに読める詩かというと厳しいが、混沌を周到に見せてくれる(排泄のイメージも多用される)攻めの姿勢は大いに評価したい。
まるでこの家は
水底のようだ
夢からさめればいつも
藻草や
言葉や
みじんこが舞っている
つけくわえれば
立葵の花のはるか下で
わたしは眼球に点滴されている
(「水鏡」)
ふと我に返ったときの述懐のような。なお、「僧侶」「苦力」は以下で読める。