『富岡多恵子詩集』、佐滝剛弘『郵便局を訪ねて1万局』

 

富岡多恵子詩集 (現代詩文庫 第 1期15)
 

 世の中にはいろんな人がいて各々が人生の意味やなんやかんやといった問題を抱える中、特にそういうものに興味がない人もいる。生きて食って殖えて死ぬのが人間だと見切ってしまった人。そんな人が何の拍子か詩を書くことになったとき、富岡多恵子のように書くのではないか。当初は外圧に対して一応は抗してみる姿勢も見えたが、次第にそこから浮き立ち、浮世をスケッチするようになる。それも、自身からも身をかわし続けて、ころころと転がる言葉とイメージで。身も蓋もないとも言えるがさばさばとした姿勢は清々しくさえ感じられる。

 

郵便局を訪ねて1万局―東へ西へ「郵ちゃん」が行く (光文社新書)

郵便局を訪ねて1万局―東へ西へ「郵ちゃん」が行く (光文社新書)

 

風景印の収集を趣味にして三十年あまりの著者が語るその魅力。この方は現地に出向いて自分の手で捺すことを基本としており、ということは自然、郵便局巡りはオリエンテーリングの様相を呈する。郵便の歴史や地方の特色、局の建築、風景印そのものの美しさなど、郵趣を横断的に楽しめる素晴らしい観点だと思う。特に、一般人ではなかなか辿り着けない局(空港内、皇居)、地理的に到達困難な局を目指すくだりにはマニアの苦労が偲ばれる。富士山風景印の分布なんて本当に面白い。