森哲弥『幻想思考理科室』、『谷川雁詩集』

森哲弥『幻想思考理科室』

「少年の自転車が風景の奥から現れた。内燃機関と作用機構の絶妙の調和がこちらへ向かって走ってくる。」(「力学有情」) 詩人の身の回りの風景はその「理科的」といっていい眼で眺められ、思考の中で仕組みや原理が確かめられる。現にそこにあるもの、ありえたかもしれないものをためつすがめつして、生い茂った夢想からふと顔を上げてみれば、存在することへの驚異の念に気づかされる。なんとなく詩人の裡にいる少年と語らっているようで楽しい。第51回H氏賞受賞。

 

谷川雁詩集 (現代詩文庫 第 1期2)

谷川雁詩集 (現代詩文庫 第 1期2)

 

 きわめて象徴的で難解な詩で、昔はわからないなりに好きだったが今読むとつらいものがある。これは「けだし詩とは留保なしのイエスか、しからずんば痛烈なノウでなければならぬ」という激越な姿勢からくるもので、そこに政治性を読み解くなどということは好事家がやればいいとして、意味を読み取るのが困難なほど極端に追い詰められた言葉を追いかけながら、彼方の世界を垣間見るのがいいだろう。あと田舎を持ち上げるのにはシンパシーを感じる。自分も田舎者なので。

しずかに問え この道に

す裸の夜の法廷

内側からの誘いに

ふと青ざめる

  孤独の冠の重さを

 

(「道」)