『石垣りん詩集』、『岩田宏詩集』

 

石垣りん詩集 (現代詩文庫 第 1期46)

石垣りん詩集 (現代詩文庫 第 1期46)

 

 生活の中で酷薄なまでに研ぎ澄まされた「目」が、時に人間の営みの芯を貫く。その片鱗は第一詩集に見えていて、会議室に居並ぶ人々を「いつかみんないなくなる顔」「からっぽのがいこつ」と眺めたり(「顔」)、「ゆけばゆくほど一人になる/空のまっただ中を/風船は昇ってゆく。」(「ぬげた靴」)と自己が他から離れていく様を描く。第二詩集においては「(ひょっとすると人間は、どこかの寓話の川のほとりに、/住んでいるかもしれないな)」(「カッパ天国」)と見なすまでになり、傑作「シジミ」「母の顔」「童謡」に結実する。見つめる視線が恐ろしい。

 たとえば詩を見て虹を感じた、とします。詩は虹のように美しい、さて私も詩を書こう、詩は虹を書くことだ、と考えてしまう。どうもそうではないらしいのです。虹を書くのは大変です。虹をさし示している指、それがどうやら詩であるらしいということ。

 

岩田宏詩集 (現代詩文庫)

岩田宏詩集 (現代詩文庫)

 

 初期から一貫してリズムと押韻と繰り返しを重視した「歌」の形式で、歌う対象は「左手と右手」「冬と夏」などの簡単な二項から、それらを含む矛盾に満ちた世の中へ。やがて歌は時流に寄り添い、革命闘争に目配せをしながらアジテーションの様相を呈しもし、さらに幾ばくかを経て70年代に途絶える。歌を武器に現実と戦い、その原初的な力で現実の変容を試みた詩人の軌跡は、これはもう掛け値なしにかっこいいとしか言えない。アンソロジーなどではよく見かけるがこうしてまとめて読むと本当に痺れる。熱烈におすすめ。