『安水稔和詩集』、『茨木のり子詩集』

 

安水稔和詩集 (現代詩文庫)

安水稔和詩集 (現代詩文庫)

 

 詩人が世界と対峙して言葉を発する時、つまり認識と詩が重なる一点において必要とされるのは、ある種の抵抗力である。この抵抗によって多様なレンズの個性が生まれてくるわけで、ほとんど世界が素通りな人や、異様に歪んだ眼を持つ人が出てくる。安水稔和の姿勢は質実としか言い様がなくて、世界からの圧を全身に引き受け、たしかな言葉を固い地面の上に一歩として踏み出す。一歩は重ねられ次第に旅となり、旅は歌となる。世界自体が訥々と歌っているようだ。

死ぬ

という言葉を使わざるをえないときには

生きる

という言葉を二度三度四度口にした。

 

(「動詞の話」) 

 

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20)

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20)

 

 詩人の姿勢があまりに毅然としており、かといって言葉を追い詰めすぎるということもなく、伝達のために研ぎ澄まされた強い詩には背筋を正される。戦争やあるいは全体性によって失われたもの、受けた傷をもとに社会をプロテストする様は小気味良いし、同じ傷を持つ者に対する目線は戦友に対するように爽やか。長詩「りゅうりぇんれんの物語」の事実の重さにも圧倒された。また、巻末の「「櫂」小史」はありし日の詩人たちの若やぎが感じられてとても良い。ただこれを読むとあなたにもちゃんと青春はあったじゃないかと思うのだけど。