西沢実『ラジオドラマの黄金時代』、土門拳『土門拳の昭和』ほか

 

ラジオドラマの黄金時代

ラジオドラマの黄金時代

 

 NHK嘱託の放送作家として往年のラジオドラマに関わった人物による回顧録。ラジオドラマ創始期の研究者でもあってラジオドラマ事始めに関してはやや詳しいが、おおよそは関係者とのエピソードにページが費やされている。ラジオドラマは文字言語(書き言葉)ではなく音声言語を用いて聞き手の幻想を呼び起こす分野(テレビより受け手の協力を必要とする)で、便宜上は脚本にまとめられるが実態は音の上にある。本書も砕けた調子で著者の肉声が伝わってくるようだった。

 

土門拳の昭和

土門拳の昭和

 

 アクの強い写真! リアリズム写真を標榜したとのことだが、特に対象のドラマ性を抽出しているように見える(俺リアルというか)。有名人や美術品を撮ったものは構図がぴたっと決まってて絵葉書めくにしても、むしろこの人の撮り方がフォーマットとして定着したということではないのかな。

 

上野駅の幕間 本橋成一写真集

上野駅の幕間 本橋成一写真集

 

 合理化・商業化の波に洗われる前の時代の上野駅。電光掲示板も自動改札もベンチもない。ベンチがないということはホームに新聞紙などを敷いて座るわけで、しかも東北へのターミナル駅だから、様々な人(浮浪者も)が大荷物を抱えて電車を待っている。しまいには酒盛りや立ち小便(!)まで。今と何が違うって衛生意識がもうまるで違う。過去がいいとは言わないが、現在の上野駅と引き比べつつ古い時代に思いを馳せるのも一興。

 

小島一郎写真集成

小島一郎写真集成

 

 1950年代に土門拳がリアリズム旋風を巻き起こしてから、中央の風を受けつつも造形的な美を追い求め、津軽の地を被写体に己のアイデンティティを見出したという。ただ、土門がリアリズムを標榜しながらも題材主義に陥ったように、小島も津軽の現実を理想化していると気付いたのか、後期は叙情を排して中間のトーンのない、白と黒のコントラストが強烈な写真を撮る。と、ここまで解説の受け売り。後期は版画や水墨画のようで、人間の感覚が抜けてあの世の風景を見ているみたいだった。