ノーマン・コーン『ノアの大洪水』、川村邦光『地獄めぐり』

 

ノアの大洪水―西洋思想の中の創世記の物語

ノアの大洪水―西洋思想の中の創世記の物語

 

 洪水物語はメソポタミアを起源とし、聖書においてはノアの大洪水として創世記に記された。キリスト教世界では2000年もの間、この物語の解釈を巡って様々な議論が展開される。単に象徴や意味を読み取る動き、それからデカルトニュートンを経て、機械的自然観のもとに信仰と科学の融和をはかる方向へ。結局は地質学の発展につれて否定されるに到るのだけど、現在でも根本主義(聖書を無謬とする主義)は生き残っている。聖書ありきでこじつけられたトンデモ理論は楽しいが、実際に影響力を持っていたことを考えるとうそ寒い。

 

地獄めぐり (ちくま新書)

地獄めぐり (ちくま新書)

 

 地獄を中心に他界観について。いくつかトピックがあるが、殯から火葬への葬制の移行で「蘇りを期待しないで、身体から霊魂の分離を早め、いち早く死を決定しようとする」態度があったとするのはわかりやすい。身体と霊魂の二分化は強められ、行って帰ってこられるような水平的な他界観が、この世とは断絶した垂直的な他界観になる。また、自分たちの世界の現実を受け止めて、それを越えようとする想像力が発揮されたという点は胸に留めておきたい。この世を種にしたものが他界とすれば、他界から現実を読み取ることもできるだろう。