ジャック・カゾット『悪魔の恋』、ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』

 

世界幻想文学大系〈1〉悪魔の恋 (1976年)

世界幻想文学大系〈1〉悪魔の恋 (1976年)

 

 フランス幻想文学の先鞭をつけ、大革命の露と消えたジャック・カゾットの作品集。軽い気持ちで召喚した悪魔が美女の姿をとって主人公に迫る「悪魔の恋」は、それが悪魔の下心あってなのか、それとも女性としての真心によるものなのか判然とつかない状態で駆け引きが続くというもの。さすがに時代の限界が見て取れる結末だが、この作品が後続を用意したと考えると味わい深い。他、ユーモアの強いファンタジーが二篇、夢の内容を描いた掌編もなかなか面白かった。カゾットの経歴に詳しい解説も良い。

 

新装版 悪の誘惑

新装版 悪の誘惑

 

 幻想文学畑の著名人がマストとして挙げており、知られざるゴシック文学の名作という評判から、評価だけが先行しているのでは…などと危惧しながら読んだら、これが完全に杞憂だった。スコットランドの宗教的風土を下敷きに兄弟の確執を描く本作は、発表から200年近い現在読んでも興奮させるほどの魔力を湛えている。アクの強い人物造形、事件を裏表から見せる構成、ついでにメタフィクションの仕掛けまでぴたりと決まっていて、尋常でないテンションで引っ張られる読書体験だった。堪能しました。