『フリードリッヒとその周辺』、稲生平太郎『定本 何かが空を飛んでいる』

 

 1978年の展覧会図録。「樫の森の修道院」のような特に有名な作品は載っていない。

 彼は自分はただ月の光ばかりを描いていると言って自分で自分を笑い、もし人間が死後別世界に行くものだとするなら自分は必ず月の世界に行くことになるのだろうと思っていると話した。

 

 

定本 何かが空を飛んでいる

定本 何かが空を飛んでいる

 

 円盤本の名著の復刊であるとともに稲生平太郎/横山茂雄のオカルティズム文集といっていい。現実と精神の裂け目を円盤が飛ぶように、ちらりと覗いた他界に心を奪われ、人生を決定的に変容させられてしまった人々の姿。はたから見れば滑稽にも映るが、彼らの世界認識が切実にも選び取られたものであり、それは物語や芸術を生む原動力ともなることが看取されれば、これは決して人ごとではない。なんとなれば、我々もいつ円盤を目撃するかもしれず、突然にしてシオンの都に導かれるかもしれないのだ。

…そんなわけで、稲生平太郎氏のトークショーでサインをしていただきました。宝物です。