ジャック・ブノア=メシャン『庭園の世界史』、若桑みどり『薔薇のイコノロジー』

 

庭園の世界史―地上の楽園の三千年 (講談社学術文庫 (1327))

庭園の世界史―地上の楽園の三千年 (講談社学術文庫 (1327))

 

 世界史と銘打つにはいささか偏りがあるものの、各国の庭園文化を見渡してその本質を明らかにしていく。ただし内容的にも誤りや軽重が見受けられ、日本はかなり下駄を履かせてもらっている上に固定観念に走っているところあり、英国の風景式庭園は完全にスルーなど、ある程度の留保付きで読まなければならない。訳がこなれた美文のエッセイとしてはとても良かった。地上の楽園たるペルシアの庭、地獄の庭ボマルツォ、太陽王のエルミタージュ(隠者の庵)、グラナダアルハンブラ

「 人間はその心の奥に、失なった楽園を思う胸を刺すようないたみを持ち続けたのである。」

「イスラム思想においては、影はものの存在が目に見える証拠として、きわめて重要な意味を与えられた。影を落とさないものは存在しないのである。」

「庭について書くとき、たとえわずか数行でも、光の恩寵について書かずに済ませることが出来るだろうか。」

 

薔薇のイコノロジー

薔薇のイコノロジー

 

 美術・建築・装飾など様々な領域で表現されてきた植物のシンボリズムを読み解く。あとがきによれば「『イコノロジー』という名前を冠した日本人による最初の本」だそうで、当初からこのように領域横断的な研究だったのかと驚く。植物のイメージによって世界や宇宙を表現することは、時代や東西を問わず普遍的であり、形式にも左右されないということがよく理解された。たった一輪の薔薇にも全宇宙がこめられているのだ。

 至高のものも最低のものも、万物の連続の上限と下限に過ぎない。従って、善と悪とは、その中間にあるさまざまな状態の両方の端に過ぎないのである。別の言い方をすれば、悪とは、善の多様なありかたの下層に過ぎないのである。