塚本邦雄『夏至遺文』、『日本幻想文学大全 I 幻妖の水脈』

 

夏至遺文 (1978年)

夏至遺文 (1978年)

 

 塚本邦雄が小説も書いているとは知らなかった。歌人らしく細部の彫琢に力を尽くすスタイリストで(たとえば皆川博子赤江瀑中井英夫などの名前を思い浮かべてもらえればよい)、旧字旧仮名の文章からは濃厚な幻想が匂い立つ。集中の白眉は、無能のふりをした魔人に家庭が甘やかに侵されていく「僧帽筋」。他、秋の夜長に愉しむにはぴったりの佳作揃い。今後はこの人の著作も集めていこうと思う。

 

日本幻想文学大全 I 幻妖の水脈 (ちくま文庫)

日本幻想文学大全 I 幻妖の水脈 (ちくま文庫)

 

 源氏物語から牛の首まで、決定版に相応しい贅沢なラインナップ。実際、「耳無芳一」「夢十夜」「高野聖」「押絵と旅する男」など押しも押されもせぬ名品揃い、あらためてこれら名品を味わうのも乙でしょう。自分はやはり「死者の書」が最高でした。