塚本邦雄『眩暈祈祷書』、岡林洋『廃墟のエコロジー』

 

眩暈祈祷書 (1973年)

眩暈祈祷書 (1973年)

 

 キリスト教テーマの自選歌集。聖書には信仰ではなく美的価値しか認めていないとのことで、自然、短歌もスタイルに走ったものになる。なのでまあ意味を汲み取るというよりは深く考えず浸る感じで読み進めた。耽美な雰囲気の中で「彼女ら永久に愛しあふ罰」とか「わがたましひは噛みしくちびるほどのくれなゐ」みたいな一節が出てくるとはっとする。

 

廃墟のエコロジー―ポスト・モダンからの見なおし

廃墟のエコロジー―ポスト・モダンからの見なおし

 

 ロマン主義を過去の様式の引用運動であったと捉え直し、それは現代のポストモダンの運動に通じているものとして、自由な様式の引用と異化とともに、エスニック・アート(民族芸術)などによる根源の追求の動きを示す。「廃墟」とは一種の比喩であって、そこからさらに新しいものが生まれるというポジティブな意味で使われている。メランコリーをポジに転換するのは個人的にも好感が持てる。また、モダニズムを空白と捉えて一九世紀とポストモダンを直接に繋ぐのは、妥当性は措いてひとつの考え方ではあるなと感心した。