倉数茂『黒揚羽の夏』、ヴォルフガング・シヴェルブシュ『楽園・味覚・理性―嗜好品の歴史』

 

黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

両親の離婚協議のため田舎に預けられた子供たちが、土地の人々とともに一夏の冒険(と言うには少々血なまぐさい)を繰り広げる。随所に見え隠れする天沢退二郎リスペクトが物語を盛り上げるものの、マイノリティの問題や思春期の悩みをふりかけて、きっちり構図と伏線を用意して意外性もありつつベタなところを狙ってみましたというウェルメイドな感じが鼻につく。田舎で子供たちが土地の事件に巻き込まれて、理解力のある人に助けられて、幻想的で伝奇で…と過去のいろんな作品を彷彿とさせるけど、結局それ以上には行かない。

 

楽園・味覚・理性―嗜好品の歴史

楽園・味覚・理性―嗜好品の歴史

 

 香辛料、コーヒーやチョコレートや茶、果ては酒や麻薬まで、嗜好品と呼ばれるものの領域はまことに広い。本書は社会における嗜好品の受容を辿る文化史的な一冊で、各時代の嗜好品文化、その象徴的な意味合いを解き明かす。彼方から到来した新文化が一部の人にもてはやされ、上から下へと一般化の流れが進む。あるいはそうしたカオスの到来に社会がどう反応し、馴化していったか。これは境界線の引き直しの歴史と言ってもいいかもしれない。図版が多めなのもグッドです。