『高橋睦郎詩集』
同性愛が主題の耽美な言葉の世界。決定的に欠けた自己を埋めるために己と同じものを求める、それは他者を求めながらも自己への沈潜ともいえるが、罪の意識を募らせつつ罪に酔いしれる、高踏的な妖しい世界を形作る。修辞によってほとんど肉体化された言葉で彼方に腕を伸ばし、闇の世界の輪郭を浮かび上がらせることは、ソナーで探るような認識の手段、あるいは虚無の側に立って存在と互いに歌い交わす恋唄なのだろう。
俳句・短歌・能曲と形式を変えて、存在の彼方の永遠なるものを求めて言葉の彷徨は続く。詩人が年経たこともあってなのか、時間の中を過ぎ去っていく存在へ愛惜の念を歌う詩も出てくる。詩人自身の埋められないナルシシズムをそのままに。だけど、あまりにストレートに性的な言葉が多いので少々辟易した。