『長田弘詩集』

 

長田弘詩集 (現代詩文庫 第 1期13)

長田弘詩集 (現代詩文庫 第 1期13)

 

 同時代のいくつかの死を前に、青春期の死の誘惑を振り払って生の方向に歩みを進める。その意識が戦後詩の状況にも重ねられ、<荒地><列島>を後ろに見てそれらとは違った姿勢を形作る。前方の未知に向かって詩を書くこと、詩は「いつだって既知の秩序から未知の秩序への越境なのだ」。苦悩と気概に満ちた若々しい詩は詩人の出発を高らかに歌い上げる。詩の中に時折現れる海洋的なイメージ、たとえば氷山のアザラシ、船と港湾、海鳴りなどは、未知への浮標のようで美しかった。

 

続・長田弘詩集 (現代詩文庫)

続・長田弘詩集 (現代詩文庫)

 

 戦争をほとんど経験せず朝鮮戦争に直面するにも若すぎたという世代的な陥穽にあったことが、なまじ先行の詩人が目立ったばかりに大きいように思う。「革命もドリルヒヒもみたことがなかった。/(…)/老いるなら、立ったまま老いるのだ。」(「どこへも」) そのようないらだち、もどかしさを自己確立の根拠にしなければならなかった初期を脱して、おどけた道化的な身振りで自己と世界を詩にさらすスタイルへと変貌する。読みやすいけど言葉遊びの度が過ぎてちょっと。