屋根の上で何かが

風の強い真夜中

屋根の上で何かが話をしている

じゅくじゅくと泥を踏むような音が聞こえる

それがどんな存在の発する音なのか

そもそも生きているのか死んでいるのかもわからないが

寝ている耳には話し声なのだということがはっきりわかる

それはたしかに声であって 腐った茄子の化け物や

頭の大きな赤子が 風に吹かれているのかもしれない

じゅくじゅくと地上にえぐれた傷を覗きこんで

その中で眠りにつくわたしの頬をついばもうと狙っている

わたしの頬はとっくに崩れて 奥歯が覗いている

奥歯のすべてが親知らずになってしまって

外側を向いて生えている鬼の口で

きのうも茄子や赤子を喰ったのだ と思えば

寝ている間に喰われるのも仕方のないことではある

だが待てよ これはなんの変哲もない夢ではないか?

寝床から出て外を見やると特に変わったこともなくて

やっぱり不思議なことなんてないんだな と残念に思う

真っ暗な中 机の上の包みからりんごを取り出し

がぶっと一口齧ると りんごの芯にわたしが寝ていて

大きな口がむしゃむしゃと美味しそうに

食べていく それが真夜中の美術館の壁に

飾られた銅版画であることもわかっているのだけれど

ごおっと一際強い風が吹いて

屋根の上で何かが話をしているのだけれど