天沢退二郎『人間の運命―黄変綺草集』、国立西洋美術館『非日常からの呼び声』

 

人間の運命―黄変綺草集

人間の運命―黄変綺草集

 

 23冊目の詩集とのこと。あれだけかっちりとした散文で夢の世界を構築していたのに、ここにきて詩はだらしなく伸長した行分けの体裁を取る。唄とも韻文とも言いがたいこの不定形のチーズ、まぎれもなく天沢退二郎が使う言葉でありながら、言葉遊びの度合いも増してますます羽目をはずしていく。まさか「イナバウアー」なんて言葉が飛び出すとは。まあファンとしては「楽しそうだからいいか」と思うのだけど。

 

国立西洋美術館『非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品』

展覧会カタログ。小説家の平野啓一郎をゲスト・キュレーターに迎えたやや一般受けしそうなセレクトで(同時開催のジャック・カロ展と併せてバランスを取ったのだと思われ)、「幻視」「妄想」「死」「エロティシズム」「彼方への眼差し」「非日常の宿り」と6つのセクションで展示する。専門教育を受けていない人のセレクトは肩の力を抜いて楽しめる。マックス・クリンガー《行為》、ハンマースホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》が良い。個人的にロドルフ・ブレスダン《善きサマリア人》の実物を見られたのが嬉しかった。