中川浩一『観光の文化史』、サマセット・モーム『雨・赤毛』
文学作品に現れた観光文化をその背景とともに見る。たとえばライヘンバッハの滝とその周囲の状況をシャーロック・ホームズの物語と突き合わせて検討してみるなど。観光文化を包括的に論じたものを期待していたのでこれはちょっと失敗だった。パック旅行・海水浴・遊園地の始まりに軽く触れられてるのがよかったくらいかな。
- 作者: サマセット・モーム,William Somerset Maugham,中野好夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1959/09/29
- メディア: 文庫
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モームの小説は初めて読んだ。傑作と名高い「雨」は人間の悪を描く作品で、雨に閉じ込められた南海の島でキリスト教の教化が行われるというもの。いかにも作者の皮肉な人間観が出ており、それはたとえば原住民の放埒な生活を罪だと認識させるために罰金を導入する、つまり強引に罪を可視化したという一挿話にもよく表れている。そうした手際を劇的と見るかあざといと見るかで評価は変わってくるだろう。他の二篇はともかく、「雨」にはたしかに凄みが感じられた。