『天国・地獄百科』、吉田健一『金沢・酒宴』

 

 ボルヘスと盟友ビオイ=カサーレスによる古今東西の地獄・天国に関する言説を集めた一冊。通して読むといまいち楽しみどころがわからないがこういうのは一行でも琴線に触れるところがあればよい。「私がいくら飛翔しても行きつくところは必ず地獄。私が地獄なのだから。(魔王の告白・ミルトン)」

 人間よ、天国を望むなら人間であることを止めるのだ。神はただ神々を受け入れるのみだから。

人間よ、天国を内に抱かざれば、天国へ入ることはかなうまい。

さあ、これでよい、友よ。さらに読みたければ、自ら本となり、ドクトリンと化すのだ。

 

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)

 

 加賀金沢にて土地の精のような存在から饗応を受ける「金沢」、飲酒エッセイから幻想の世界に誘われる「酒宴」の二篇を収める。決して読みやすいわけではない息の長い特異な文体で、時間について空間についての講釈を聞くうちに、酔いに任せて感覚の世界へと遊ぶことができる。酩酊した頭では正直わけがわからないがそれがひたすらに心地よい。「酒宴」に「飲んでいるうちに何だかお風呂に入っているような気持になって来る」という一節があるが、自分も気分よく酔った時は同じ感覚を覚えるもので、文章でその境地を再現できるとは驚きだった。