池上俊一『動物裁判』、『ドイツ幻想小説傑作選』

動物裁判 (講談社現代新書)

動物裁判 (講談社現代新書)

動物が人間を襲う事件は現代でもままあるが、中世において人間を害した動物は、裁判にかけられて法のもとに処せられていた。この一見奇異に映る事実の裏に、ヨーロッパの自然観の変遷、理性の発達を読み取っていく。自然の領有化の過程で人間中心主義が台頭して、その成果である合理性・刑罰・正義がやみくもに適用された結果が動物裁判とのことで、結論にいたるまでの丁寧な論述には好感が持てるし、なにしろ虫にまで弁護人をつけていたなどというエピソードから中世精神史が展開するのは実にスリリング。さっと読めてためになった。

ドイツ幻想小説傑作選 ――ロマン派の森から (ちくま文庫)

ドイツ幻想小説傑作選 ――ロマン派の森から (ちくま文庫)

おそらく後世の幻想小説の一大淵源であったろうドイツ・ロマン派だが、個人的にはなかなか作品に触れる機会がなかった。本書はティークやシャミッソーら代表的な作家の5篇を収める。中でも気になったのがアルニム「アラビアの女予言者 メリュック・マリア・ブランヴィル」で、魔女を交えた三角関係から大革命の混乱へとなだれこむいびつな構成が目を引く。また、ドイツならやはり鉱物幻想ということでホフマン「ファールンの鉱山」も心を捉えて離さない。鉱山の底深い暗闇の中、幾筋もの鉱脈をたどった先には紅玉髄の女王が座している。